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2022.12.24
国立公園や国定公園などの観光地の空撮や林業での点検飛行等、山でのドローン飛行の機会は増えています。人もいなく大自然の中なのでドローンを自由に飛ばすことが出来そうなものですがそうではありません。
山林は、国交省の飛行許可承認を持っているだけではなく、別途一定の手続きを行なったり個々の許可が必要となる場所の1つです。
山林といっても、その所有形態によって次のように分けられています。まず、国が所有する国有林とそれ以外の民有林と大別されます。民有林は更に、公有林(都道府県や市区町村等のが所有)と、私有林(個人や企業が所有)とに分けられています。
いずれの山林も、所有者に無断でドローン空撮を行うことはできません。所有形態ごとに手続きや方法は異なりますが、いずれも所有者ないし管理者への相談なしに勝手に飛行させることは法律違反となるので注意が必要です。
所有形態ごとの手続きは次の通りです。
国有林の場合の手続きは決まっていて、「入林届」の提出が全国共通のルールとなります。入林届はその山林を管理する森林管理局という林野庁の出先機関に提出します。
全国七ブロックに分けられた森林管理局では、ドローン飛行の手続きについてホームページに掲載していますので、飛ばしたい山のある県を所管する森林管理局のHPで必ず確認するようにしましょう。
国有林の方は「入林届」という手続きを踏めばドローン飛行が可能ですが、国の所有以外の民有林(公有林と私有林)はその山林の「所有者の許可」が必要となります。
山林に限らず、飛ばす場所の所有者や管理者が「ノー」と言った場合は、飛行許可承認を取得していても飛ばせないのがドローンです。民有林はまさに所有者(=管理者)それぞれ個別に相談し、お願いをして許可を得ることが不可欠の場所です。
民有林の一つである「公有林」は都道府県や市区町村が所有し管理者となっています。公有林で飛ばす場合は自治体各々の役所に問合せ、相談するところがスタートです。自治体によって手続きは様々なので、指示に沿って進めれば良いでしょう。
私有林でいう所有者とは正確に言えば「登記上の所有者」です。登記上の所有者は、1つの山に複数が混在しているケースが多く、これらの所有者を全て特定するのは大変難しい作業になります。
また、所有者が特定できた場合でも、今度は所有者ひとりひとりへ個別に相談し許可をもらう必要がありますので、私有林でのドローン飛行は相当な労力のかかるプランと言えます。
ただ、その一帯を観光協会等の法人団体が管理している場合もありますので、問い合わせてみて飛行計画への許可を得たり、他に調整が必要な関係機関を教えてもらったりすれば、私有林での飛行も進めやすくなります。
入林届の中身を知る前に、まず大前提として認識しなければならないのは、入林届というものは「許可書ではない」ということです。入林してドローンを飛行させる許可を森林管理局から取得した...という性格のものではない事に注意が必要です。
あくまでも「この山林で飛行させますので、お知り置きください」という申告書のようなもので、それが「受理」されたというだけのことです。従って、もしも現場で第三者から「許可の有無」を問われるような事態が生じた場合は、「無人航空機を飛行させる場合の入林届を出して受理されている」ことを伝え、入林届のコピーを提示する対応をとるようにしましょう。
入林届とは、国交省が発行する飛行許可・承認書のような「許可」の意味合いを持つものではないということです。
【入林届の概要】
ドローンには、航空法で禁止されている飛行空域や飛行方法がいくつかありますが、その1つに「高度150m以上の飛行禁止」があり、150m以上の高度で飛ばすには飛行許可申請が必要になります。
この規制がある理由は、150mという飛行高度が人が乗っている航空機やヘリコプターが飛行する空域と重なり、ドローンと衝突する危険があるからです。
そして、ドローンの高度については航空法上の定義があり、とても重要な要件となります。それは航空法上の高度が「地表または水面から」と定められている点です。
この「地表または水面から150m以上」という基準が、ドローン飛行にどのように影響するのでしょうか。高度を表す指標としてよくあるのが「海抜」です。海抜の場合は、どこまでいっても海面からの高さを指している為、海抜高度ならばどこを飛んでも高度150mをキープできます。
しかし、ドローンでは海抜ではなく「地表からの距離」が高度となるため、飛行している真下の地面から何mの位置に機体はあるか...ということで飛行している高さが決まります。
従って、ドローンが山の頂上から垂直に離陸し、そのまま真横に飛んでいくと、山肌は裾野に向けて下がっているため、機体と地表との距離(=高さ)は徐々に開いていくことになります。
例えば、裾野の平野部からの高さが100mある山の頂上でドローンを離陸させたとします。その頂上の真上で上昇し、禁止高度ギリギリの149mの高さまで飛ばしたドローンは、当然違反とはなりません。
しかし、そのまま真横に平行移動して裾野の平野部上空に来たときは、地表からの高度が249mとなっていて、知らないうちに違反飛行に陥ってしまっているのです。
山で飛ばす場合は、山の起伏(山の高さ・谷の深さ)を十分に考慮して高度149mを超えない飛行計画を立案する必要があるということです。
ドローンを高度150m以上で飛行させる場合には、国交省への飛行許可申請に加えてもう1つルールがあります。その空域を管理している空港事務所に飛行許可を申請することです。
空港周辺の高度150mという空域は航空機などの有人機が飛行する高度です。空港事務所に飛行計画(日時・飛行経路・高度等)を提出し、航空機の飛行に支障を与えることにならないか等の判断や、航空機の飛行に支障を与える危険が生じた場合の飛行中止のルール等を決める手続きです。
高度150mを超える飛行を行う場合は飛行許可申請が必要となります。この場合は、ポピュラーな包括申請では許可はされないため、改めて「場所を特定した」個別の申請が必要となります。
逆に、高度150mで未満の飛行であれば飛行許可申請なく飛ばすことができます。包括申請の取得者であれば改めて申請することなく飛行させることが可能です。また、包括申請がなくても航空法で禁止されている空域や方法以外で飛行させれば飛行許可申請は不要となります。
山林でドローンを飛行させる際、気をつけるべきことは更にあります。それは、飛行中に鳥と遭遇することです。
鳥の縄張り意識はとても強く、特に繁殖期である春から夏にかけて、縄張り近くをドローンが飛行すると鳥からの攻撃を受けてしまいます。カラスやトンビなどは、一撃でドローンを墜落させてしまう力を持っており襲われたらひとたまりもありません。
万が一鳥と遭遇してしまった場合は、速やかにドローンを着陸させたり、旋回させその場所から離れるようにしましょう。常に鳥や巣の存在には注意を凝らして、鳥が警戒しないように飛行させることは、環境保護の面からも操縦者の務めだと言えるでしょう。
山林という飛行環境は、鳥との遭遇だけなく樹木や送電塔など平野部とはまた違った障害物のある場所です。また、山中、山間という立地の影響から電波障害が生じる可能性もあり、操縦不能による墜落のリスクが避けられないのも山林の飛行です。
万が一ドローンが山中に墜落した場合、機体の捜索は困難を極めます。しかし飛行場所にかかわらず、墜落した機体の回収は操縦者の義務であり、捜索・回収をせずに放置すれば「不法投棄」とみなされ廃棄物処理法違反となります。(罰則:5年以下の懲役若しくは1,000万円の罰金またはこの併科)
それだけでなく、山林での墜落はバッテリーの発火から山火事を起こす恐れもあります。電波障害のある場所では確実とはいえませんが、最近はアプリに墜落時の場所を特定できる機能もあるので、それらを頼りにあらゆる手段で回収の手を尽くす必要があります。
どうしても発見できなかった場合は、次の措置を速やかに行いましょう。
山の雄大な景色はドローン空撮にぴったりです。価値のある映像となるからこそ、決められた手続きや不慮の事態に遭遇した場合の対処方法等、準備に万全を尽くして臨みましょう。
バウンダリ行政書士法人
代表行政書士 佐々木 慎太郎
(Shintaro Sasaki)
行政書士として建設業などの根幹産業と関わり、ドローンに特化したバウンダリ行政書士法人を創設。ドローン運航に必要な包括申請から高難度な飛行許可申請、国家資格スクール(登録講習機関)の開設・維持管理・監査まで幅広く対応し、2023年のドローン許認可件数は10,000件以上を突破。
無人航空機事業化アドバイザリーボード参加事業者および内閣府規制改革推進会議メンバーとして、ドローン業界の発展を推進している。またドローン安全飛行の啓蒙活動として、YouTube「ドローン教育チャンネル」を開設するなどSNSで最新の法律ルールを積極的に発信。著書に『ドローン飛行許可の取得・維持管理の基礎がよくわかる本』(セルバ出版)がある。